オゾン層は、いま回復している|人類が「地球の穴」をふさぎはじめた40年

宇宙から見た地球と薄く青い大気の層

環境のニュースは、たいてい暗い。

気温は記録を更新し、海面は上がり、生き物は減っていく。読めば読むほど「もう手遅れなのでは」という気分になる。

だが、ひとつだけ、はっきりとうまくいっている話がある。

オゾン層だ。

1980年代、南極の上空に「穴」が見つかった。有害な紫外線を防ぐ地球のバリアが、人間のつくった化学物質で壊されていた。それから約40年。その穴は、ゆっくりとふさがりはじめている。

国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)は2023年、いまの対策が続けば、オゾン層は南極上空で2066年頃、北極上空で2045年頃、その他の地域で2040年頃に、1980年の水準へ戻る見通しだと発表した。

人類は、地球規模の環境問題を、本当に直しつつある。この記事は、その話だ。

目次

1. 何が起きていたのか

オゾン層は、地上から約10〜50km上空の成層圏にあるオゾンの多い層だ。太陽からの有害な紫外線(UV-B)の多くをここで吸収している。

それを壊していたのが、フロン(CFC)などの化学物質だった。冷蔵庫やエアコンの冷媒、スプレーの噴射剤、半導体の洗浄剤として、「燃えない・毒性が低い・安定している」夢の物質と呼ばれ、世界中で使われていた。

ところが、その「安定している」性質があだになった。地上では分解されずに成層圏まで上り、そこで強い紫外線を浴びて塩素を放ち、オゾンを次々と壊していく。

そして1985年、南極上空でオゾンが極端に少なくなる「オゾンホール」の観測結果が発表され、世界に衝撃が走った。

2. 人類は、どう動いたのか

驚くべきは、そこからの速さだ。

オゾンホールの発表からわずか2年後の1987年、モントリオール議定書が採択された。オゾン層を壊す物質の生産と消費を、段階的に減らしていく国際条約だ。1989年に発効し、その後の改正で規制は何度も強化された。

そしてこの条約は、米国環境保護庁(EPA)によれば、国連の歴史上はじめて、すべての国が批准した条約になった。

結果はどうなったか。UNEPによると、規制対象となったオゾン層破壊物質は、すでに約99%が段階的に廃止されている。

先進国も途上国も、すべての国が同じ方向を向き、ほぼ約束どおりに実行した。気候変動の交渉が難航するのを見慣れた目には、ほとんど奇跡のように見える。

3. 穴は、本当に小さくなっているのか

南極の氷山に飛び乗るジェンツーペンギン
写真はイメージ:Adobe Stock

なっている。ただし、年ごとの波はある。

米航空宇宙局(NASA)と米海洋大気庁(NOAA)は、2025年のオゾンホールを1992年以降で5番目に小さいと評価した。WMOによれば、2025年のオゾンホールの最盛期の平均面積は約1,871万km²で、過去最大だった2006年より約30%小さく、例年より3週間近く早く崩れはじめた。

NASAの科学者ポール・ニューマン氏は、もし25年前と同じ塩素の量が残っていたら、2025年のオゾンホールは100万平方マイル(約260万km²)以上大きかっただろうと述べている。

一方で、日本の気象庁は、2025年のオゾンホールが9月上旬には南極大陸の約1.6倍(2,280万km²)まで広がり、一時は最近10年の最大値と同じくらいになったと報告している。オゾンホールの大きさは、その年の南極上空の気温や風の状態にも左右されるからだ。

つまり、1年ごとに見れば大きい年も小さい年もある。だが長い目で見れば、原因物質は確実に減り、穴はふさがる方向に向かっている。NOAAによれば、南極上空の成層圏にあるオゾン層破壊物質は、2000年頃のピークから約3分の1減った。

4. もし、何もしなかったら

青空に輝く太陽と白い雲
写真はイメージ:Adobe Stock

この成功の大きさは、「何もしなかった世界」と比べるとよくわかる。

NASAは、モントリオール議定書がなかった場合の地球をコンピューターで再現している。その「回避された世界」では、2065年までに世界のオゾンの約3分の2が失われ、中緯度の都市では夏の正午の紫外線指数が30に達する。いまの基準で「極端に強い」とされる11以上を、はるかに超える数字だ。ワシントンD.C.のような都市でも、わずか5分で日焼けするほどの紫外線になっていたという。

健康への効果も大きい。米国立大気研究センター(NCAR)などの研究によれば、モントリオール議定書とその改正によって、米国で生まれる人だけでも、今世紀末までに約4億4,300万件の皮膚がんと約6,300万件の白内障が避けられると推計されている。

私たちは、その「回避された世界」に住んでいない。それは、40年前に人類が決断したからだ。

5. おまけの効果:温暖化も止めていた

オゾン層の話には、もうひとつのうれしい副作用がある。

フロンは、オゾン層を壊すだけでなく、非常に強い温室効果ガスでもあった。だからフロンを減らしたことは、そのまま温暖化の抑制にもなっていた。

さらに2016年、モントリオール議定書はキガリ改正で、フロンの代わりに広まった「代替フロン(HFC)」も削減の対象に加えた。HFCはオゾン層は壊さないが、温室効果はCO₂の数百〜数千倍と強い。UNEPの評価パネルは、キガリ改正によって2100年までに0.3〜0.5℃の温暖化が避けられると見積もっている。

オゾン層を守る条約が、いまでは気候変動対策の柱のひとつにもなっている。

6. それでも残る宿題:家庭のエアコン

住宅の壁に設置されたエアコンの室外機
写真はイメージ:Adobe Stock

では、もう私たちにできることはないのか。

ある。しかも、すごく身近なところに。

日本では、エアコンや冷蔵庫に入っている冷媒(フロン類)を、機器を捨てるときに回収することが法律で決まっている。ところが、環境省と経済産業省の資料によると、2024年度の機器廃棄時の冷媒回収率は冷媒量ベースで約42%にとどまる。家庭用エアコンに限っても約44%。半分以上が回収されないまま、どこかへ消えている計算になる。

2030年度の目標(業務用機器で冷媒量ベース75%)にはまだ遠い。代替フロン(HFC)の排出量も、2022年にようやく減少に転じたばかりだ。

オゾン層を壊す古いフロンはほぼなくなった。だが、いまのエアコンに使われている代替フロンは、温暖化の原因として、まだ私たちの家の中にある。

7. この記事の数字を、わが家に当てはめると?

編集部試算

いま主流の家庭用エアコンの冷媒「R32」の地球温暖化係数は675(CO₂の675倍)。1台に入っている冷媒の量を0.8kgと仮定すると、それがすべて大気に出た場合、CO₂に換算して約540kgになる。

少し前の機種に多い冷媒「R410A」なら温暖化係数は2,090。同じ0.8kgで約1.7トンに相当する。

つまり、エアコン1台を正しいルートで手放すだけで、数百kg〜1トン以上のCO₂に相当する排出を防げる。

正しいルートは次の3つ。

  • 買い替えのときは、販売店に引き取ってもらう(家電リサイクル法の対象)
  • 処分だけなら、購入店か、自治体が案内する方法で引き渡す
  • 無料回収をうたう許可のない業者には渡さない(冷媒が回収されずに捨てられるおそれがある)

※前提:冷媒量0.8kgは編集部の仮定値です。実際の冷媒量は機種により異なり、室外機の銘板に記載されています。温暖化係数はフロン排出抑制法などで使われている値です。全量が大気に出た場合の上限値であり、実際の削減効果は機器の状態により異なります。

8. 「直せる」ことを、知っておく

記事07「人類が消えたら地球はどうなる?」では、CO₂の「つけ」は数千年残るという、少し重い話を書いた。

だがオゾン層の物語は、その反対側にある希望を見せてくれる。

  • 問題が見つかったら、科学者が原因を突き止めた
  • 原因がわかったら、世界が2年で合意した
  • 合意したら、すべての国がほぼ約束どおり実行した
  • そして40年かけて、地球は本当に回復しはじめた

人類は、地球規模の環境問題を直すことができる。それは希望的観測ではなく、すでに一度、起きたことだ。

次にエアコンを買い替えるとき、少しだけこの話を思い出してほしい。あの室外機の中にも、オゾン層を守った40年の物語の続きが入っている。

出典

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