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今朝、あなたが三角コーナーに落とした野菜の皮は、いまどこにあるだろうか。
収集車が持っていったあと、それがどこへ運ばれ、何になり、いくらかかっているのか。答えられる人はほとんどいない。ゴミとは「見えなくなった瞬間に終わるもの」として設計されているからだ。
だが、見えなくなったあとにも工程は続いている。そして、その工程の実態を数字で追いかけていくと、ひとつの奇妙な事実に突き当たる。
私たちは、毎年2兆2,912億円かけて、大量の「水」を燃やしている。
このシリーズは、家庭のゴミを減らす方法を紹介する連載だ。だが最初の1本は、方法の前に現在地を確認することに使いたい。何が起きているかを知らないまま始めた行動は、たいてい長続きしないからだ。
まず、全体の大きさを知る

環境省が2025年3月に公表した最新の調査(令和5年度)によると、日本のごみ総排出量は 3,897万トン。1人1日あたりに直すと 851グラム になる。
このうち家庭から出るぶん(家庭系ごみ)は 2,175万トン、1人1日あたり 475グラム だ。
前年度からは3〜4%減っている。減少傾向自体は続いており、この10年ほど日本のごみは緩やかに減り続けてきた。まずそこは押さえておきたい。事態は悪化しているのではない。ただ、改善のスピードが十分かどうかは別の話だ。
そして処理の内訳を見ると、日本の特徴がはっきり出る。
| 指標 | 令和5年度 |
|---|---|
| 減量処理率(=主に焼却) | 99.2% |
| 直接埋立率 | 0.8% |
| リサイクル率 | 19.5% |
| 最終処分場の残余年数 | 24.8年 |
日本はごみの99%以上を「燃やしてから埋める」国である。 これは世界的にかなり特異な構成で、国土が狭く埋立地を確保しにくいという事情から選ばれてきた合理的な解でもある。
だが、その合理性は「何を燃やしているか」を問わない前提の上に成り立っている。
燃やすごみの4割は、生ごみ
ごみ袋の中身を実際に開けて数えている自治体がある。京都市は1980年度から45年以上、毎年「家庭ごみの細組成調査」を続けている。収集場所でサンプリングし、300項目以上に分類する、かなり執念深い調査だ。
その令和6年度の結果が、こうなっている。
- 生ごみ:約4割
- 紙ごみ:約3割
燃やすごみの過半が、生ごみと紙で占められている。京都市はさらに内訳まで出していて、手つかずのまま捨てられた食品や食べ残しといった「食品ロス」が年間約2.11万トン、リサイクル可能な紙ごみが約1.90万トンあるとしている。
これは京都市のデータであって全国平均ではない。ただし、家庭ごみの湿重量ベースで厨芥類(生ごみ)が3割前後を占めるという傾向は、他の調査でも共通して確認されている。
つまり、焼却炉に入っていくものの3〜4割は、もともと生き物だったものだ。土に還る性質を持ち、条件さえ整えば数か月で土に戻る素材が、いま最も多く燃やされている。
生ごみの正体は、ほとんど水である

生ごみの水分含有率は、おおむね 80%前後 とされる。野菜くず、果物の皮、茶がら、食べ残し。どれも重量の大半は水だ。
水は燃えない。それどころか、燃焼を邪魔する。
ごみを焼却するとき、炉の中ではまず水分を蒸発させる必要がある。水1kgを蒸発させるには相応の熱量を要し、そのぶんのエネルギーは「ごみを燃やす」ためではなく「水を飛ばす」ために消費される。廃棄物工学では、この蒸発潜熱を差し引いた値を低位発熱量と呼び、焼却施設の設計はこの数値を基準に組まれている。
水分の多いごみが増えると、低位発熱量は下がる。すると何が起きるか。
日本の焼却施設1,004か所のうち、発電設備を持つのは411施設(40.9%)、年間の総発電電力量は 10,254GWh(約262万世帯分)にのぼる。ごみ焼却は、いまや日本の分散型発電インフラのひとつだ。
その発電効率は、投入されるごみの発熱量に左右される。水分の多い生ごみが混ざるほど、ごみ発電から取り出せる電気は減る。
もちろん「生ごみを燃やすのに重油を大量投入している」というほど単純な話ではない。現代の焼却炉の多くは、紙やプラスチックと混焼することで自燃を維持できるよう設計されている。だから正確に言えば、こうなる。
生ごみを燃やすことのコストは、燃料の追加ではなく、取り出せたはずのエネルギーの目減りとして現れている。
見えない損失は、請求書に載らない。だから誰も気づかない。
値札を貼ってみる
では、いくらかかっているのか。
令和5年度のごみ処理事業経費は 2兆2,912億円。前年度から6.5%増えている(建設改良費4,402億円、処理・維持管理費1兆7,000億円)。
これを乱暴に割り算してみる。
| 割り方 | 概算 |
|---|---|
| ごみ1トンあたり | 約5万8,800円 |
| 国民1人あたり(年間) | 約1万8,000円 |
| ごみ1kgあたり | 約59円 |
※ 施設の建設改良費を含む総事業費を、総排出量および総人口で単純に除した概算値。実際の限界費用とは異なる。
1kgあたり59円。この数字を、さきほどの生ごみに当てはめてみる。
1人1日あたりの家庭系ごみが475グラム、そのうち4割が生ごみだとすると、1人1日あたり約190グラム、年間にして 約69kg の生ごみを排出している計算になる。4人世帯なら年間およそ280kg。
これに1kgあたり59円をかけると、4人世帯で年間約1万6,000円分の公的な処理費用が、生ごみのためだけに使われていることになる。
もちろんこれは家計から直接引かれる額ではない。税金として、見えない形で支払われているだけだ。
しかも、その一部は「まだ食べられたもの」だった

生ごみのすべてが避けられない副産物というわけではない。
農林水産省・環境省の推計によると、令和5年度の日本の食品ロスは 464万トン。内訳は事業系231万トン、家庭系233万トン で、いまや家庭からのほうが多い。
食品ロスとは「まだ食べられたのに捨てられた食品」を指す。手つかずのまま期限切れになった食材、作りすぎた料理、皮の剥きすぎ。これらは調理の副産物ではなく、買った時点ではまだ食べ物だったものだ。
野菜の皮を堆肥にする話と、食品ロスを減らす話は、実はレイヤーが違う。前者は「出てしまったものの行き先」の話であり、後者は「そもそも出さない」話だ。優先順位で言えば、後者が先に来る。
だが現実には、どれだけ丁寧に暮らしても生ごみはゼロにならない。ヘタも、芯も、種も、骨も出る。だからこの二つは、どちらか一方ではなく両輪で考えるしかない。
燃やさないことを選んだ町がある

鹿児島県の南東部に、大崎町という人口1万人ほどの町がある。
この町には焼却炉がない。かつてはすべてのごみを埋立処分場に運んでいたが、1998年、その処分場が予定より早く満杯になることが判明した。新しい焼却炉を建てる財政的な余裕はなかった。
町が選んだのは、燃やすことではなく、分けることだった。
2001年に生ごみの分別回収を開始し、翌年には堆肥化を始めている。現在は町の有機工場に1日およそ3トンの生ごみが運び込まれ、破砕されたのち屋外のピットで約5か月かけて堆肥になる。生ごみ・草木剪定くず・割り箸を合わせると、集められたごみのおよそ65%が堆肥化されているという。できた堆肥は、町民に安く還元される。
結果として大崎町は、自治体別の一般廃棄物リサイクル率で 日本一を14回(2006〜2020年度)達成した。2020年度のリサイクル率は 83%。全国平均が19.5%であることを思い出してほしい。
この事例をどう読むかは慎重でありたい。人口1万人の町でできたことが、そのまま100万人都市で成立するとは限らない。分別の手間は住民が負担しており、それが可能だったのは「処分場が満杯になる」という切迫した共有課題があったからでもある。
それでも、ひとつだけ確実に言えることがある。
日本の99.2%という焼却率は、技術的な必然ではない。選択の結果である。
では、家庭で何ができるのか

ここまでの数字を、ひとつの流れとしてまとめておく。
- 家庭系ごみ 2,175万トン
- └ うち生ごみ 3〜4割(およそ650〜870万トン規模)
- └ 水分は約80%
- └ 焼却時、水の蒸発に熱を消費 → 発電効率が下がる
- └ 処理費用は1kgあたり約59円(税負担)
- └ うち「まだ食べられた」食品ロス 233万トン
この流れのどこに手を入れられるか。上流から順に3つある。
① 買いすぎない・使い切る
食品ロス233万トンへの介入。最も効果が大きく、最もお金がかからない。冷蔵庫の在庫を把握するだけで減る家庭は多い。
② 水を切る
重量と発熱量への介入。生ごみの水分を減らせば、収集重量も焼却時の負荷も下がる。三角コーナーで一晩置く、絞る、といった数秒の動作で数割減る。最も地味で、最も費用対効果が高い行動はおそらくこれだ。
③ 燃やさずに循環させる
段ボールコンポスト、密閉式、電動処理機、庭があるなら剪定枝で組む「バイオネスト」。手段は住環境によって変わる。この選択については、次回以降で1本まるごと使って比較する。
参考までに、本文で挙げた3つのタイプの定番はこのあたりだ。それぞれの向き不向きや失敗しやすいポイントは、次回以降の比較記事で詳しく検証する。
順番が大事だ。③から入ると、多くの人は続かない。①と②は今日から始められて、道具も要らない。
最後に、正直に書いておくこと
堆肥化は万能ではない。この記事で「燃やすより堆肥化がいい」と言い切らなかったのには理由がある。
生ごみを堆肥化する過程で酸素が不足すると、嫌気性の発酵が進み メタン が発生する。メタンの温室効果はCO2の数十倍とされる。切り返しが不十分な堆肥の山は、焼却より温室効果ガスの排出が大きくなる可能性がある。
また、分別収集を新たに始めれば、収集車の走行が増える。堆肥化施設の建設と運転にもエネルギーがかかる。「燃やさなければ環境にいい」という等式は、丁寧に検証しない限り成り立たない。
このシリーズでは、その検証も逃げずにやる。第5回で、堆肥化のCO2削減効果を条件ごとに数字で追う予定だ。
そのうえで、それでもこの記事を書いた理由はひとつ。
水分80%のものを、1kgあたり59円かけて、エネルギーを目減りさせながら燃やしている。 この構造は、少なくとも「最適」ではない。最適でないものを見つけたら、より良い形を探す。それだけのことだ。
次回は、その「より良い形」を実際に自分たちの手で作ってみる。庭の剪定枝を組んで作る、買わない堆肥置き場の話だ。
この記事の数字を、わが家に当てはめると?
4人世帯が1年間に出す生ごみはおよそ280kg。処理費用に換算すると、年間約1万6,000円分の税金が生ごみのためだけに使われている計算になる。
生ごみの約80%は水分だ。捨てる前に一晩置いて、ぎゅっと絞る。それだけで重量は数割減り、焼却炉の負担も収集車の重量も軽くなる。仮に1割減らせれば、4人世帯で年間約28kg・処理費用換算で約1,650円分。道具も費用も要らず、今日から始められる。
※編集部試算。1人1日あたり家庭系ごみ475g×生ごみ4割×4人×365日≒約277kg。処理費用は令和5年度ごみ処理事業経費2兆2,912億円÷ごみ総排出量3,897万トン≒1kgあたり約59円で換算した概算値(施設整備費を含む総事業費ベースであり、実際の限界費用とは異なる)。
関連記事:牛のふんが肥料になるなら、犬のうんちも肥料になるのか/コーヒーかすは、肥料になる。ただし、そのまま撒くと植物が育たない
出典
- 環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和5年度)について」2025年3月27日 env.go.jp
- 環境省「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和5年度)について」 PDF
- 京都市「家庭ごみの細組成調査」(令和6年度) city.kyoto.lg.jp
- 環境省「令和5年度の食品ロス発生量」 PDF
- 消費者庁「2023(令和5)年度食品ロス量推計値の公表について」 caa.go.jp
- 環境省「高効率ごみ発電施設整備マニュアル」(平成30年3月改訂) PDF
- 一般社団法人大崎町SDGs推進協議会 プレスリリース prtimes.jp
- 日経BP「『リサイクル率日本一』鹿児島・大崎町がめざす循環型社会」 nikkeibp.co.jp
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