コーヒーかすは、肥料になる。ただし、そのまま撒くと植物が育たない|「なる」と「使える」のあいだにある一工程

コーヒードリッパーに残った抽出後のコーヒーかす

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毎朝、ドリップの後に残るコーヒーかすを捨てながら、ずっと思っていた。これ、土に撒けばいいのでは。

検索すれば「コーヒーかすは肥料になる」という記事はいくらでも出てくる。消臭にもなる、虫除けにもなる、と。ところが公的機関が公開している試験成績を読み始めたところで、手が止まった。そこに書かれていたのは、こうだった。

そのまま施用すると、逆に植物が肥料不足になる。

「肥料になる」も本当で、「そのまま撒くと育たない」も本当らしい。この二つは矛盾していない。あいだに、ひとつ工程が挟まっているだけだった。

コーヒードリッパーに残った抽出後のコーヒーかす
抽出が終わった時点で、飲む成分はカップへ、残るものはこちらへ分かれている(写真はイメージ:Adobe Stock)
目次

まず、「焙煎粉」と「かす」は別のものだった

出発点になったのは、神奈川県農業技術センターが公開している「コーヒー粕の農業利用」というページだ。同センターは平成3年度から食品廃棄物のたい肥化に取り組んでいて、コーヒー粕についても野菜類17種・花卉類10種で施用試験を行っている。

そこに、こう書かれている。

原料であるコーヒー豆や、その焙煎物は生育阻害を示さない

神奈川県農業技術センター「コーヒー粕の農業利用」

つまり、植物の生育を止めているのは「コーヒー」そのものではない。お湯を通したあとの、かすだ。焙煎した豆をそのまま挽いて撒くぶんには、阻害は出ない(もっとも、飲めるものを撒く人はいないので、家庭で問題になるのは常に「かす」のほうだ)。

コーヒーを淹れるという行為は、成分をカップ側と残りかす側に分ける作業でもある。飲みたい成分の大半はカップに移る。そして、植物を止めるぶんだけが、かすに残る。ここが今回の話の核心だった。

コーヒー豆と挽いた粉、インスタント顆粒をスプーンに並べた様子
焙煎した豆、挽いた粉、インスタント。家庭にかすが出るのは、このうち粉から淹れる場合だけ(写真はイメージ:Adobe Stock)

成分表を見ると、肥料としてはかなり薄い

同センターが示しているコーヒー粕の性状は、次のとおり。米国オレゴン州立大学(OSU)エクステンションの数値も併記した。

項目数値出典
有機物ほぼ99%神奈川県
窒素(N)約2%(米国の値は1〜2%)神奈川県/OSU
リン酸(P)約0.2%神奈川県
カリ(K)約0.3%神奈川県
含水率65%以上神奈川県
pH(抽出後)6.5〜6.8(ほぼ中性)OSU
コーヒー粕の性状(出典は記事末尾に記載)

家庭用の化成肥料が「8-8-8」のように二桁の数字を並べているのと比べると、桁がひとつ違う。OSUのリンダ・ブリューワー氏(土壌学)も、コーヒーかすは微量元素をわずかに含むものの主要な養分供給源ではないとはっきり書いている。

では何が期待できるのか。OSUによれば、主な効果は養分ではなく土の構造と排水性の改善だ。微生物がかすを食べる過程で出す物質が、土の粒子を安定した団粒に結びつける。神奈川県も、コーヒー粕の粒子が炭のような多孔質で、乾かすと水分や悪臭を急速に吸着すると書いている。

肥料というより、土壌改良材。この時点で、期待の置きどころが少しずれていたことに気づく。

そのまま撒くと止まる理由(1)窒素は「ある」のに「使えない」

成分表には窒素2%とある。なのになぜ肥料不足になるのか。

神奈川県の説明はこうだ。コーヒー粕の窒素成分は、そのほとんどが難溶性の分画に含まれていて、植物に利用されにくい。しかも土に入れると、微生物がかすを分解しようと一斉に増える。増えるには窒素がいる。微生物は、自分が食べている炭素の塊に窒素が足りないぶんを、土の中にもともとあった窒素から先に取っていく。

結果として、植物が使えるはずだった窒素が一時的に土から消える。これが窒素飢餓と呼ばれる現象で、OSUも同じことを書いている。生のかすを土にすき込むなら、堆肥化した家畜ふんやアルファルファミール、刈草といった窒素源を一緒に入れて相殺しろ、と。

肥料をやったつもりが、肥料を奪っていた。これが一つ目。

そのまま撒くと止まる理由(2)発芽を止める成分が、少しだけ残っている

もう一つが、発芽阻害物質だ。

日本植物生理学会の質問コーナーに、まさにこの件のやりとりが残っている。「コーヒーかすを堆肥がわりに4年くらい施用したら、果樹の新梢が伸びなくなった」という話について尋ねたものだ。回答はこうだった。

生豆には大量のポリフェノール(主にクロロゲン酸)とカフェインが含まれ、焙煎したものにはその分解物や酸化重合したものが含まれる。これらは水溶性なので大半は抽出液のほうに出ていく。かすにはほとんど残らない。ただし少量はどうしても残留しており、そのまま継続して与えると生育阻害を起こす可能性がある。

ここも「かすとカップ」の話だった。酸もカフェインもポリフェノールも、大半は飲む側に行っている。にもかかわらず、残った少量が、毎日積み上がれば効いてしまう。

神奈川県の試験では、作物によって生育抑制の傾向が大きく異なることも分かっている。つまり「うちのプランターは平気だった」という体験談と「枯れた」という体験談が、どちらも嘘ではない形で両立する。何を植えているかで結果が変わる。

OSUの言い方はもっと直接的だ。ブリューワー氏はこう言っている。

みんな熱心すぎる。推奨量を本気で守ってほしい。コーヒーの入れすぎでダメになったレイズドベッドを、私は見てきた。

Linda Brewer(オレゴン州立大学エクステンション・土壌学)

ついでに正しておきたい誤解──「酸性だから、酸性土壌の植物に」

コーヒーかすの用途としてよく見かけるのが、「酸性なのでブルーベリーやアジサイ、ツツジに向く」というものだ。これはOSUがはっきり否定している。

抽出後のかすのpHは6.5〜6.8で、ほぼ中性。コーヒーの酸味の正体である成分は、水に溶けてカップのほうへ行ってしまっている。さらに、かすが土のpHにもたらす変化は一時的だという研究もある。

だから、ブルーベリーやツツジ、シャクナゲ、青く咲かせたいアジサイのために土を酸性にしたいなら、コーヒーかすでは足りない。専用の資材を使ったほうがいい。

ここでも構図は同じだった。酸はカップに行き、阻害成分だけがかすに残る。期待していた性質は出ていき、期待していなかった性質が残っている。

生ごみを堆肥化して土に還す様子
堆肥化という一工程を挟むことで、生育阻害の要因は軽減される(写真はイメージ:Adobe Stock)

では、どうすれば「肥料になる」のか

神奈川県のページは、問題点を列挙したあとに一行でこう締めている。

施用前に充分な堆肥化を行うことにより、これらの問題は解消されます。

神奈川県農業技術センター「コーヒー粕の農業利用」

堆肥化の過程で起きる微生物反応が、発芽阻害の要因を軽減する。窒素の形も変わる。つまり「コーヒーかすは肥料になる」は正しくて、そこに至るまでに一工程あるだけだった。

具体的な数字を出しているのはOSUのほうだ。

堆肥にする場合

  • 容積比で、落ち葉3:新鮮な刈草1:コーヒーかす1
  • コーヒーかすは山全体の20%を超えないこと(これを超えると植物に有害になりうる)
  • 週1回切り返し、水分を見ながら管理
  • 3〜6か月で使える状態に
  • ペーパーフィルターも一緒に堆肥化できる

堆肥化せず土にすき込む場合

  • 約1.3cm(1/2インチ)ぶんのかすを、深さ約10cm(4インチ)にすき込む
  • 窒素源を一緒に入れて、窒素飢餓を相殺する

マルチとして地表に敷く場合

  • かすだけを敷くと表面が乾いて水をはじく層になるので、落ち葉やバークで覆う

期間については、日本側にもうひとつ参考になる記述がある。神奈川県がダイコンとコーヒー粕を混ぜて堆肥化した試験では、61日間発酵させたものでも、コマツナ栽培でコーヒー粕由来の生育障害が見られた。障害を回避するには、さらに長期間の二次発酵が必要だという。

数週間では足りない。「なんとなく黒くなったから」ではなく、腐葉土のような匂いになるまで置く。それが「使える」までの距離だった。

なお、OSUはコーヒー店からかすをもらってくる場合、密閉容器で保管することを勧めている。カビが生えることはあるが、堆肥の中では無害で、むしろ分解に寄与するとのこと。

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カフェのエスプレッソマシンでコーヒーを淹れるバリスタ
店舗から出るコーヒーかすは、1店舗1日あたり平均約11kg(写真はイメージ:Adobe Stock)

企業は、この一工程を「仕組み」にしている

家庭で数か月かけるこの工程を、事業として回している例がある。

スターバックス コーヒー ジャパンは2014年から、抽出後のコーヒーかすのリサイクルに取り組んでいる。同社の2025年5月のリリースによれば、店舗から出るコーヒーかすは1店舗1日あたり平均約11kgで、店舗から出る食品廃棄物の約7割を占める。この取り組みを全国約1,000店舗まで広げ、年間約4,000トンの廃棄物削減を見込む。2030年には全店舗でのリサイクルを目指すという。

技術面を担ったのは株式会社メニコンだった。2014年のリリースによれば、コーヒー豆かすが持つ抗酸化物質や多孔質な構造が牛の飼料や野菜の堆肥として有効利用できることが分かり、乳酸発酵飼料と堆肥の製造が実現している。コーヒー豆かすを飼料や肥料として再生利用する食品リサイクルループの認定は、国内初だった。

つまり、企業は「そのまま撒く」ことなどしていない。乳酸発酵という工程を挟み、専用の設備を通して、はじめて畑と牛舎に渡している。家庭の堆肥箱は、その工程を小さくしたものだ。

逆に言えば──この一工程を挟まないまま「かすは肥料になるから」と土に撒く行為は、企業がやっていることの手前で止まっている。

わが家では、どれだけ出ているのか

この記事の数字を、わが家に当てはめると?

全日本コーヒー協会の2024年度調査では、1週間あたりの平均飲用杯数は10.05杯。ただしこのうち、家庭にかすが出るのはレギュラーコーヒーの3.55杯分だけです。インスタント・リキッド・缶コーヒーのかすは、どこかの工場で出ています。

  • レギュラーコーヒー 週3.55杯 → 年 約185杯
  • 1杯10gの粉を使うとして、年 約1.8kgの粉
  • 抽出後のかすは、水を含んで 年 約4kg/1人(2人世帯なら約8kg)
  • 前回記事で見たごみ処理費用(約59円/kg)に当てはめると、2人世帯で年 約470円分

金額としては小さい。正直に書けば、家計が変わる規模ではありません。それより効いてくるのはこちらです。

  • その4kgのうち、約2.7kgは水です(含水率65%)。焼却炉に運ばれているものの大半は、水分でした。

全国では(編集部試算)

  • 2025年のコーヒー輸入量は生豆換算で 418,773トン(財務省貿易統計)
  • 焙煎での減量・抽出率・含水率から逆算すると、抽出後のかすは 年およそ70万〜80万トン規模
  • 家庭系ごみ総量2,175万トン(令和5年度)の3%台にあたる量が、家庭と工場に分かれて出ている計算になります

※試算の前提:1杯あたり焙煎粉10g/焙煎による減量18%/抽出率20%/抽出後の含水率65%(神奈川県の値)。コーヒーかすの発生量には公的な統計が存在しないため、上記の全国値はすべて編集部による試算です。前提が変われば数字も変わります。

「肥料になる」は、条件つきで正しかった

調べ終えて残ったのは、こういう整理だった。

コーヒーかすは肥料になる。ただし、肥料として薄い。主な働きは養分供給ではなく、土の構造を良くすること。そして、そのまま撒けば窒素を奪い、発芽を止める。だから一工程──充分な堆肥化──を挟む必要がある。

前回、犬のうんちが肥料になるのかを調べたとき、線を引いていたのは動物の種類ではなく「その工程が虫卵を殺せると確信できるかどうか」だった。今回も似ている。線を引いているのは素材ではなく、工程を経ているかどうかだ。

コーヒーかすは、最初から肥料なのではない。堆肥にしたものが肥料なのだ。この一語の差を飛ばしたまま「かすは肥料になる」と書いてきたページが、たぶん自分の検索結果の大半だった。

ひとつ、余談として面白かった話を書いておく。OSUによると、ナメクジやカタツムリには濃いめに淹れたコーヒー液が効く。1〜2%のカフェイン溶液を土壌に灌注した試験ではナメクジが全個体死亡し、2%溶液をラン用培地に施用した試験ではカタツムリの95%が死んで、一般的な殺虫剤を上回ったという。ここでも効いているのは、かすではなく液のほうだった。(ただしこれは米国の研究であり、日本で農薬的に使う場合は別途、農薬取締法上の扱いを確認する必要があります。ここでは紹介にとどめます。)

飲む部分と、捨てる部分。どちらに何が残るのかを一度ちゃんと見ないと、期待は毎回ずれる。

次回予告:家庭の堆肥箱に、実際にコーヒーかすを入れてみる。「腐葉土のような匂いになるまで」が何日なのか、自分の庭で測ってみます。

出典

  1. 神奈川県農業技術センター「コーヒー粕の農業利用」(2026年3月24日更新)
    https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450009/p581303.html
    ※参考文献:神奈川県農業総合研究所報告 第138号(1998)pp31-40 ほか
  2. 日本植物生理学会「みんなのひろば 植物Q&A」登録番号2276(2010年8月9日)
    https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2276
  3. Oregon State University Extension Service「Coffee grounds boost soil health — and help control slugs」(2025年1月公開/2025年レビュー)
    https://extension.oregonstate.edu/news/coffee-grounds-boost-soil-health-help-control-slugs
  4. 全日本コーヒー協会「日本のコーヒーの輸入量の推移」(財務省貿易統計、2025年確々報)
    https://coffee.ajca.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2026/03/data-yunyu-suii2025.pdf
  5. 全日本コーヒー協会「コーヒー需要動向調査 2024年度 第22回調査(概要)」(2025年5月)
    https://coffee.ajca.or.jp/pdf/data-juyodoko-gaiyo2024.pdf
  6. スターバックス コーヒー ジャパン プレスリリース(2025年5月29日)
    https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2025-5537.php
  7. スターバックス コーヒー ジャパン プレスリリース(2014年4月7日)「『再生利用事業計画(食品リサイクルループ)』認定を2件同時に取得」
    https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2014-933.php
  8. ごみ処理費用(約59円/kg)および家庭系ごみ2,175万トンは、当サイト過去記事「家庭の生ゴミは、どこへ行っているのか」(環境省 一般廃棄物処理事業実態調査 令和5年度)より

編集部注:本記事は公開資料をもとに構成しています。コーヒーかすの発生量に関する全国値は編集部による試算であり、公的な統計値ではありません。前提条件は本文中に明記しています。誤りにお気づきの場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。

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